FC2ブログ

熟成そば其の五

(Mon)

Posted in 未分類

0 Comments

ーーー

なぜ玄挽きなのか。それは酵素などの要因かと想像するのですが、よくわかりません。以前農家さんが「そばの殻を畑に入れると、線虫の活動を抑えられるという研究がある」と言っていました。このことと熟成には関係があるかもしれません。

昨年18年は熟成そばを休んでいましたが、その期間にうっすらと考えていたのが、「在来種の方が熟成向きである」という私の既成概念は正確ではなくて、「天日干しが熟成に大きくプラスになっている」ということです。前者もほぼその通りなのですが、福井の丸岡在来や大野在来は、人の手で焙煎したものを使う限り、熟成には向いていませんでした。これまで20種類ほど熟成させてみて特に熟成に向いていたのが長野南相木村在来、板橋のほぼ有機栽培そば(信濃一号を自家採種で20年)でした。自分たちで育てた練馬も天日干しですが、栄養を与えすぎたのでしょうか、種が常陸秋そばだったことも理由でしょうか、ぼちぼちな熟成でした。

殻の2度挽きはとても重要で、これで殻が30%程度粉になります。ミキサーやミルでは、軽すぎて全く粉砕できません。ただし、殻を粉にするために石臼を通すと、平たくのびた殻が臼の中を通り、やんわりと目を摩耗させます。できることなら、熟成そば用の石臼とうちたてようの石臼は別で用意すべきです。熟成そば用の石臼は超粗挽き向きに作るべきです。殻が軽いので、通常の通り道を設計すると、殻が落ちていきづらく、挽いている間つきっきりで見ていることになります。

のあえでは2012年に熟成そばを提供し始めました。まずは、熟成感が強く感じられる平打ちとして。これは十割の超粗挽きで、のちに「べんけいそば」と名付けます。もうひとつ、小麦粉を加えて細打ちにする、熟成そば。前者は粗すぎて細くできません。粗い方が熟成でのびる余地があります。五日目が熟成のピークで、穀物の香り、力強さが出てきます。田舎そばと言われるものとも全く違います。火が通るように、食べやすいように、その他の理由で平打ちにしています。

余談ですが、なぜそばという食物は、麺になったのでしょうか。そばが麺文化として根付いたのはここ日本と朝鮮だけのようです。フランスではガレットとして焼かれ、ロシアでは粒のまま茹でておかゆにする食文化があります。

粒のまま茹でたり、そばがきにしたり、焼いた方が風味を強く感じられます。しかし、日本では麺としてもりそばというスタイルで食べることが定着しました。あらゆるそばの食べ方の中で最も風味が強いものは、一にそばの実おひたし、二にかまあげ、三にそばがきでしょう。かまあげやそばがきはそれように製粉することができ、風味を強く押し出すことも出来ます。もりそばには、この製粉方法は適用できません。(さらに余談ですが、のあえのそば湯はそばがきと同じ製法で、毎日作っています。そばがき用の製粉で仕立てているので、味が濃いのです)

日本でもりそばがはやったのは精神文化と自然環境のなせる技でしょう。もりそばにわさびを添えることが定番となったのは、かなり最近だと推測されます。わさび本来のコクと辛さは、そばやカツオだしに合いません。しかし、冷たいもりそばが定着しているように、わさびも現代日本人の嗜好に合いました。

わさびが特に合う食材は脂があるもの、甘み旨みが強いものです。肉類と生魚に相性が良い。あと、ご飯。もりそばはかそけき料理です。そばという食材にわさびを合わせる方法としてはもりそばに薄削のかつおぶしとたっぷりのわさびをあえて食べる。などなど、一工夫すれば可能です。

厚削りの鰹出汁とかえしでつくるもりつゆはもりそばとの相性が良いですが、ここにわさびを添える積極的理由はありません。オープンから2年間は若いわさびを静岡のわさび農家さんから送ってもらっていました。わさびは1年2年と育てることでコクのある風味が出ます。1年未満であれば鰹出汁とバッティングしません。お客様の満足と店側の信念を汲み、コクのないわさびを使うこと、、、それが一つの答えでした。

今回最後に記しておきたいのは、対象を記号で認識して、それだけで理解した気にならないこと。江戸時代のそばは現代の手打ちそばと色々違います。機械を駆使して原料処理する丸抜きのそばより、熟成そば方が江戸時代のそばに近いのではないか。そのように思うこともあります。

酒の世界で学ぶ際、重要なのは表現することでした。私はビールの醸造所で働かせていただくチャンスを得て、1年間隔週で製造日の日付だけ違う同ブランド商品をブラインドテイスティングしました。ABCの3種類のグラスビールを、どの2種類が同じ製造日で、どの1種類が違うのか当てた上で、それぞれの評価を言葉にするのです。私はそこを辞める最後の週のブラインドテイスティング以外、正答率100%でした。

同じ銘柄で売られているビールも、中身は全部違います。「そば」という記号は江戸時代と現代で指すものが違います。

熟成そばの概要は後生のために記録しています。いつか熟成そばを完成する人が現れることを願います。
スポンサーサイト